何が起きたか
2025年4月2日、トランプ大統領が「Liberation Day(解放の日)」と銘打ち、全世界に対する大規模な相互関税を発動してから1年が経った。この1年間で関税政策の変更は50回を超え、税率の引き上げ・引き下げ・一時停止・再発動が繰り返された。
数字が物語る1年の結果——米国の製造業雇用は8万9,000人減少し、「米国の工場を復活させる」という当初の目標とは逆の結果となった。Tax Foundationの試算では、関税による米国家計の年間負担増は約940ドル。約6週間前、最高裁はIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく一部関税を違憲と判断し、大統領の関税権限に初めて憲法上の制約を課した。
そして1周年の4月2日、トランプ政権は医薬品に対する最大100%の新関税を発表した。UNCTADは「世界貿易の著しい減速」を警告している。
各国はどう報じたか
🇺🇸 米国(成果か失敗か、真っ二つ): NPRは「50回以上の政策変更、製造業雇用の減少、家計負担の増加」と具体的数字を並べ、「約束された製造業ルネサンスは実現しなかった」と総括した。CFR(外交問題評議会)は最高裁の違憲判決を「関税権限の歴史的転換点」と位置づけた。一方、Fox Newsは8カ国との貿易協定締結を「歴史的な交渉成果」として報じ、特に中国との貿易休戦を強調した。Wall Street Journalは医薬品関税の発表を「新たな不確実性」として企業への影響を中心に分析した。
🇨🇳 中国(「一方的な強圧」から「休戦の成果」へトーン変化): 環球時報は1年前の「一方的ないじめ」という論調から変化し、米中貿易休戦を「中国の毅然とした対応が米国を交渉に引き戻した」と報じた。新華社は医薬品関税について「米国の消費者が最大の被害者になる」との論評を配信した。
🇪🇺 EU(協定を得ても警戒を解かず): Financial Timesは、EUが8カ国の一つとして協定を締結したものの、関税リスクは「構造的に残存している」と分析。最高裁判決について「法的安定性の回復には程遠い」とした。独Handelblattは欧州製造業への1年間の影響を数値化し、サプライチェーン再編コストを報じた。
🇯🇵 日本(協定締結国として「成果」を強調): 日経新聞は日米貿易協定の締結を「自動車関税の段階的引き下げ」という具体的成果として報じ、比較的肯定的なトーンだった。NHKは1周年の特集で関税の世界経済への影響を扱ったが、日本への直接的影響は「協定により限定的」とした。一方、朝日新聞は医薬品関税が日本の製薬業界に与える影響を懸念として取り上げた。
🇬🇧 英国(最初の協定国としての自負と懸念): BBCは英国がLiberation Day後最初に貿易協定を結んだ国であることを改めて報じつつ、「協定の恩恵は期待を下回っている」との産業界の声を紹介した。The Economistは1年間の関税政策を「最も予測不能な通商政策」と総括し、最高裁判決が「唯一の制度的歯止め」だったと評した。
注目ポイント
勝者と敗者——8カ国が貿易協定を締結した一方で、協定に至らなかった国々は高関税を負い続けている。ベトナム、フィリピン、インドネシアなどASEAN諸国は「脱中国」のサプライチェーン移転先として恩恵を受けたが、同時に対米依存のリスクも高まった。
最高裁の違憲判断——IEEPA関税の一部が違憲とされたことは、大統領の通商権限に前例のない司法の制約を課した。ただし判決の適用範囲は限定的で、既存の関税の大部分はそのまま維持されている。今後の訴訟の行方が、関税政策の構造そのものを左右する。
医薬品関税の波紋——4月2日に発表された医薬品関税(最大100%)は、インスリンや抗がん剤を含む幅広い医薬品に影響する。米国内の製薬業界だけでなく、インド・スイス・日本など輸出国側の反応も注視すべきだ。UNCTADが警告する「世界貿易の減速」が、この1年の延長線上にあるのか、それとも転換点を迎えるのか——次の1年が問われている。
出典
- NPR — One Year of Trump Tariffs: Over 50 Policy Changes, -89,000 Manufacturing Jobs
- Tax Foundation — The Economic Impact of Trump Tariffs: One Year Later
- Council on Foreign Relations — Supreme Court IEEPA Tariff Ruling: What It Means
- CNBC — Trump Announces New Pharmaceutical Tariffs Up to 100%
- UNCTAD — Trade and Development Report Update: Global Trade Slowdown Warning
- Financial Times — EU Trade Deal With US: One Year On, Structural Risks Remain
- 日本経済新聞 — 日米貿易協定から半年、自動車関税の段階的引き下げ進む
- BBC — Liberation Day One Year On: UK's Trade Deal Falls Short of Expectations
- The Economist — The Most Unpredictable Trade Policy in Modern History
- 環球時報 — 中国の断固たる姿勢が米国を交渉に引き戻した
- Asia Times — ASEAN Winners and Losers After One Year of Trump Tariffs